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消費者金融業界の没落

消費者金融業界の没落については、法規制や過払い金請求の増加よりも、むしろ消費者金融が続けてきたビジネスモデルそのものにもともとの火種を宿していたという指摘もある。『高利金融』の著者でジャーナリストの北健一氏は、「大手消費者金融が行ってきた、中小零細の貸金業者にツケを回すというやり方がそもそも問題」だと指摘する。融資というものは、顧客の生産力=収入を利益として回収するのが基本である。しかし、消費者金融の場合、顧客の収入や経済力などは完全に無視する形で、いわば「何とか返している客には、とにかくいくらでも貸す」というスタンスで貸し付けを行ってきた。これは、顧客がどの程度の収入があるのか、職業的に安定しているのか、本当に返済能力があるのかなどは、まったく関係ない。

身売りしようが、ほかから借金してこようが、「返済すれば変わりはない」とばかりにジャブジャブと貸しまくって、それによって利益を生み出していた。その顧客の中には、当然、返済能力を超える者が続出する。すると、今度は別の消費者金融から借りる。それでも足りなくなると、今度は中小や零細の貸金業者から借りて返済する。こういう図式では、貸し手の業者は顧客の生産力ではなく、業界で滞留している資金を当てにしていることになる。極端なことを言えば、ネズミ講のようなものである。したがって、そのビジネスに限界があることは最初からわかっていたということになる。つまり、昨今の消費者金業界の没落は、貸金業者各社の体質によるものであり、法規制や過払い金請求増加などは、単に拍車を掛けたにすぎないという見方である。

今後、消費者金融に対しては厳しい状況となることは目に見えている。これまで長い期間にわたってグレーゾーン金利で貸し付けていた分、過払い金請求は当分の間続くであろう。また、二〇〇三年以降年々減少しているとはいえ、消費者の自己破産件数はまだ年間十万件以上と高い水準にある。さらに先日、国税庁が発表した「民間給与実態統計調査」では、二〇〇九年の民間企業の平均給与は四〇五万九〇〇〇円で、前年を二三万七〇〇〇円も下回ったことがわかった。さらに、給与所得者のうち年収四〇〇万円以下が全体の六〇パーセントを占め、庶民の給与下落の傾向がさらに顕著となった形で現れた。こうした庶民の収入減が、消費者金融等の貸金業者の売り上げに大きく影響することは言うまでもなかろう。

総量規制の完全実施によって貸し付けできる金額が顧客の収入の三分の一までに制限されてしまうわけであるから、これまでのような「とにかく貸せるだけ貸す」という手は使えなくなるわけだ。こうした状況の中、消費者金融の従業員たちはどのように感じているのだろうか。「別に、とくにあわててもいないし、危機感もそれほど感じていないですよ」そう話すのは、某大手消費者金融に勤めるM氏(四一)数年前まで契約業務に就き、現在は回収部門で仕事をしている。「いちばん危機感があったのは、二〇〇七年頃だったと思いますよ。過払い利息の請求がグンと増えましたし、その頃からどこの消費者金融でも昔のようにいかなくなっていた。辞める人間も多かったですよ。とくに、業務停止命令を受けたアイフルなんて、かなり人が辞めたらしい」リストラや希望退職も、その頃が一番多かっだのではないかとM氏は回想する。

「最近は、もうそれほどでもないと思いますよ。人も減らしたし、昔は街中にやたらとあった支店や営業所、ATMなんかも、グッと少なくなりましたからね。以前は、田舎の県道沿いなんかにまでATMが置いてあったでしょう。考えてみれば、ちょっと異常だったんだと思いますよ」確かに、消費者金融そのもののATMなどは激減したと感じる。しかし、その代わりにこの三~五年で主要コンビニエンスショップ各チェーンに銀行ATMが急速に普及した。この銀行ATMで大手消費者金融の契約以外の業務、つまり借り入れと返済を行うことができる。その意味では、自社ATMをわざわざ置く必要も少なくなったともいえる。また、貸し出しが厳しくなっている現状も大きい。

「TVのCMなどでは、収入証明は五〇万円以上の契約にだけ必要だと思っている人がいるみたいですが、実際には二〇万円でも収入証明を提出してもらっていますよ。おそらく、同業他社でも同じだと思いますけれど。限度額に関係なく、少し前から契約には収入証明は必要になっています。総量規制が始まる前から、すでにどこでもやっています。もっとも、実際の収入の金額よりも、ちゃんと収入があるかどうかの確認の意味ですけれど」では、最近ではどのように変わったのだろうか。「やはり収入証明ですよ。先ほど言いましたが、五〇万円以下なら収入を証明する書類が必要ないと思っているお客さんがいますね。昔のように、収入は自己申告でいいと思って、来店してくるわけです。そして、もちろん自己申告だとOK。

でも、実際に書類を提出してもらうと、『あれこというケースが多いですね。収入証明が必要だと知ると、『また来ます』とか言って、そそくさと帰っていくお客さんも少なくない。それは、どこも一緒だと思いますよ」そうした顧客について、最近では何か変わったことはあるのだろうかと聞くと、「サラリーマンが厳しいらしい」という答えが返ってきた。「ウチはお客さんの話をよく聞くようにしているのですが、最近になって目立つのが、『給与の遅配が多くなった』と言うお客さんが結構いることでしょうか。給料の振り込みが遅れているから、家賃や公共料金の支払いに間に合わない。だから、ウチみたいなサラ金とかに借りようとする。そういうのが増えていますね。以前は、小さい会社でもサラリーマンの給料はキチンと支払われていたように思いますが、ここ数年、給料の遅配なんて珍しくなくなってきているみたいですよ」ちなみに、総量規制について、顧客と業者とで、現場が混乱したようなことはないのだろうか。

「他社はどうなのか知りませんが、ウチではあまり聞かないですね。まず、総量規制が始まるずっと前から、申し込みはかなり厳しくなっています。この六月からいきなり、給与明細を出してくださいとか、年収の三分の一しか貸せないとかなったわけじゃない。現場の混乱は、まったくないですよ。お客さんにしても、三〇万円くらい借りられればいいと思っている人がほとんどで、総量規制なんて知らない人が多いんじゃないですか。最近では、CMなどで耳にした人も多いみたいですね。なかにはゴネる人もいますが、たいていは納得しています」最後に、消費者金融というものが今後はどうなっていくと思うかを聞いてみると、「まったくわかりません。こっちが教えて欲しいくらい」という答えだった。